日本の天然スギ
天に向かってまっすぐ育つスギは材として優秀であり、この国の歴史と文化を支えるために古くから伐られてきた。故にいま我々が目にするスギの多くは人工林であり、天然のスギは辺境の地にひっそりと生き残っている。
その代表が屋久杉で、九州南端の海上に浮かぶ屋久島にある。中でも縄文杉は有名で、胸高周囲16.4mは国内最大とされ、猛烈な台風が来襲する過酷な環境で数千年を生き続けてきた。
また対馬暖流の影響が強く特異な地質学的経緯を持つ隠岐島には隠岐杉があり、岩倉の乳房杉は特徴的な下垂根を持ち、これは貧弱な土壌と高湿な環境に適応する為に発達した気根だと考えられている。
豪雪で名高い立山の山岳地帯には立山杉があり、片貝川の急流が運んだ大転石の上で芽生えた種子がそれを抱え込むように成長した洞杉は、北陸の重い湿雪に数千年も耐えながら生きてきた。
天領だった佐渡島には佐渡杉があり、日本海の強風と湿った重い雪に枝を押さえつけられ、栄養繁殖という特殊な方法で生き抜いてきた。新潟大学の演習林にある金剛杉もその特徴をよく現している。
これらの天然スギに共通するのは、数百年から数千年もの永い時間その過酷な環境に耐え、特徴的な姿へと変貌を遂げたことだ。そしていまなお時を経て力強く生き続けるこれらの天然スギには、見るものを惹きつけてやまない荘厳な美が宿っている。