セミ喰う母ザル
風の無い日だった。湿度が高く蒸し暑い森の中を、汗だくになりながらヤクザルの群れについて回る。ストラップで首から下げたカメラ本体を左手で支え、右手ではカメラから延びるトライポッドを握りながら、彼らとの距離を一定に保ちつつその動きについて回りながら撮影チャンスを待つ。
そういえば、前川貴行さんが出演した情熱大陸で、どうやったら良い動物写真が撮れるのか?というTVディレクターの質問に前川さんは「動物の動きにひたすらついて回りシャッターチャンスを待つ」というような回答をしていた。それに不満だったのか女性のディレクターは「誰にでもできそうですけど?」と疑問を呈したが、それに前川さんは「そう、誰にでもできるよ」と返していた。そう、誰にでもできるけど、簡単にできることではない。
そんなことを考えながら、1時間も彼らについて回っていると、終いには若い子ザルが僕の足許までやってきて、立ち止まった僕の長靴を小突いたりし始める。おかしな奴だけど、別段我々に危害を加える気はないみたいだ、と思ってくれたのかもしれない。
こうなると彼らとの距離感はぐっと詰まる。いい流れが来ているときにはチャンスが来るものだ。
セミを捕まえた母ザルが、そいつを口にくわえて立ち去ろうした瞬間に子ザルがその背中に飛び乗ったのだ。
珍しいシーンが撮れた。こんなことがあるから撮影はやめられないよ。
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動物にとって社会とはなにか (講談社学術文庫 169)