白谷川本流徒渉点
この写真の場所は白谷雲水峡の定番構図だ。いままで僕も幾度と無くこの場所でシャッターを切ってきた。
しかし、先日の豪雨災害の折、大きな屋久杉の倒木が流れてきて画面右下の位置に留まった。これを風景の味と見るか、風景の毀損と見るかは人によって評価が分かれるところだろう。
人は経験を重ねるほどに変化を嫌う傾向がある。だから「あのころはどうだった」という会話の好きな人はこうした変化を風景の毀損として捉えるかもしれない。その意味で長年この場所を見続けてきた人ほど後者の意見が多いのかもしれない。
その一方、初めてこの場所を訪れた人には、この流木も含めてこの風景の味である。そもそも比較する記憶を持っていないのだから、一期一会の風景がその人にとっての価値の全てであるはずだからだ。
風景は生きているから、それは日々変化してゆく。そのことに異議を唱えても仕方ない。風景写真家は、その変化のなかに新たな価値を探し続ける旅人のようなものだ。だから僕は「あのころはどうだった」という会話には、できるだけ係わらないようにしたいと思う。僕自身の心がいつまでも錆つかないためにも、いつもいつも風景の新しい価値をそこに探してゆきたいと思っている。