反芻するヤクシカの仔
撮影ツアーで西部林道を回っているとき、道脇に鹿の子模様が可愛いヤクシカの仔が現れた。樹上からヤクザルが食べ残したギブシのような花の枝をポロポロと落としていて、それを目当てにそこにいたのだ。
車を安全な道脇に止め、ゲストと一緒にカメラを持って撮影に向かう。周辺にはヤクザルの親子もいて、林床に落ちたそれを食べるのに夢中で、一向に我々を気にかける様子が無い。
終いにヤクシカの仔はその場に座り込んで反芻を始めた。偶蹄目であるヤクシカは牛と同じで複数の胃を持ち、食べたものを反芻して消化している。その時には座り込んでしまうことがある。
僕はゆっくりと距離を詰めアングルを探す。西部林道の世界遺産の森が、ヤクシカの仔の大きな黒い瞳に映りこみ、そのなかでぐるぐると何かの液体が流れるように渦を巻いているのがファインダーのEVFを通してはっきりと見えた。
4/3のカメラシステムはテレマクロ的な撮影のときは圧倒的に有利だ。換算距離ではなく実距離で考えてみればそれは当たり前なのだが、この時も138mm域のミドルレンジの実距離で、換算276mm相当の画角で撮影していることになる。動物にストレスをかけないように適度な距離を保ちつつ、限界まで近寄って撮影するときにその効果を実感できると思う。