屋久島ヒトメクリ. (14号)
わたしの大好きな屋久島の風景
第14回:マエダケ
ゲスト:有水大吾 さん 1984 年屋久島生まれ。地杉を使った循環型林業の復活を夢見て、地道な活動を続けている。
県道安房公園線、屋久杉自然館の手前を山側へ折れると周囲に杉の人工林が立ち並んでいる。車の窓からそれを眺めながら有水さんが「ほら、ここの林は混みあっていて」と解説してくれた。最初こそ意味が分からなかったが、幾つ かの林を見てゆくうち、何となくその違いが分かってきた。そして「ここです」 と車を止めた場所は素人目にもはっきりとその違いが分かった。「伸びがあって、曲がりも腐れも少なく、昔の人が大事にしていたんだなと思います」。一本の杉に歩み寄った彼は愛しそうにその杉に手を掛け、「いいなと思います」と言ってこちらへ向き直った。
屋久島で生まれた有水さんは高校進学と同時に島を出て鹿児島市内に住んだ。そこで営業職や農場関係のスタッフとして働いたあと島へUターン。そして結婚。一男一女をもうけ、島に根をはり、いまは製材所の傍ら、林業に力を注いでいる。「帰島後すぐに現場でチェーンソーを持った」。研修制度を利用し、資格もとってこの仕事も6年目に入る。「仕事が好き、山が好き、木が好き」だから屋久島で好きな場所と聞かれても「現場しか思いつかなった」。
全部の山について自ら所有者の「承諾をとった。気持ちを聞いた」。聞こえてきたのは「跡取りがいない。どうでもよか。興味が無い。境界不明」といった寂しい声。昔は下刈りに行ったが、それもしなくなったのは、材の値段が「下がっている」のが一番の理由。だから山の間伐を兼ねて製材所で買って、「ちょっとでも所有者に還元したい」。80年伐期という言葉があり、樹齢50〜80年の杉がちょうど伐り頃で、今後5年で「そうした杉が島内に溢れてくる」。昨年は地杉を使った住宅の建築が島内全体で2割程度に留まり、その比率をあげてゆくことが「今後の課題」。
そんななか、屋久島町の新町舎を地杉で建設しようという構想が持ち上がっている。屋久島の地杉を使って、屋久島で加工し、屋久島の力で建てる。オール屋久島でそれを創りあげるというビジョンだ。まだ素案の段階で、いまワークショップを開いて関係者から意見を募っているところだが、それがまとまれば、議会にかけられ方向性が決まる。屋久島のシンボリックな建物として、新庁舎に地杉を採用することができれば、島の内外に対してアピールする好材料になる。
いま屋久島のみならず、日本全体に求められているのは次代につながる循環型の林業。屋久島はその類い稀な立地によって、それを実現しうる潜在能力を持っている。有水さんのような若い世代が活躍し、それが次代につながる環境が整うことを期待したいと思う。