屋久島ヒトメクリ.(13号)
わたしの大好きな屋久島の風景
第13回:福島木工家具店
ゲスト:福島晃(ふくしまあきら)さん 1971年愛知県犬山市生まれ。2001年に屋久島へ移住。モッチョム岳のふもとの工房で、身近な生活家具を中心に制作している。
尾之間集落の入り口を山手方向へ上ってから左折。照葉樹の高木が生い茂る森の中に入ってゆくと、何カ所かに分けて木材が積んである。更に先へ進むと突然敷地が開け、数棟の建物が現れた。そこに福島木工家具店がある。車を降りて振り返るとモッチョム岳の秀麗な岩峰がせり出すようにそこを覗き込んでいる。尾之間地区のゲストは3人目だが、いずれの方も「大好きな場所」として、モッチョム岳の見える場所を指定される。しかしこれについては説明不要と話を聞く前に納得してしまった。
オーナーの福島晃さんは愛知県犬山市の生まれ。地元でサラリーマンをしていた28歳のとき見たテレビ番組が屋久島と出合うキッカケだった。「亜熱帯の海ばかりか雪の降る高い山もある。そこには条件が揃っている」と感じ、その映像が頭から離れず「ここに将来住むのかな?」という思いを強くした。しかしすぐに行動は起こさず準備期間を2年設けた。その間に「自分の気持ちが変わらなかった」ことを確認してから移住と結婚を同時に実行した。
島に住む前に木工の経験は無かったが、最初に住んだ家の下駄箱を作ったことがキッカケで徐々に木工の世界へ入り込んでゆく。サムズで丸ノコを買い、独学で身近な実用品を幾つも手がけた。そのようにして腕を磨く過程で、産業祭に出した杉のベンチに買い手がついた。するとそれを機に家具の注文が舞い込むようになる。自前品を作るところがスタートなので「規格の材に合わせて無駄が出ないようにデザイン」している。また多くは材料に地杉を使うので、高級感でなく、シンプルで飽きのこない形を心がけている。「杉には杉にあった家具があり、杉に背伸びさせても仕方無い」と。一方、稀に広葉樹が手に入るときもあり、「栴檀を使ったときには栴檀に見合った家具があると思うから気持ちは全然違った」という。「素材を生かし、素材にあった家具の形を思い描き、目の前にある材料で、流れにのって作るのが自分の中にある家具像」なのだと。そんな福島さんの家具をどこかで目にし、気に入って注文をくれるお客さんが、最近少しずつ増えている。その方たちに「シンプルで身近な実用品を気負いなく使って貰うことで、少しでも役に立てることが喜び」なのだと。
モッチョム岳のふもとの工房で、福島さんが流れにのって生み出す身近な家具は、ご自身の生き方を、そのまま体現しているのだと僕には感じられた。