屋久島ヒトメクリ.(創刊号)
わたしの大好きな屋久島の風景
毎号迎えるゲストに向かって僕は尋ねる。「あなたの大好きな屋久島の風景は」返って来た答えの場所に二人で行ってポートレートを撮る。好きな理由を聞いて記事にする。この連載を簡単に説明すると、そういうことだ。
何故こんなことを思いついたのか、理由はいろいろあるが、やはりその人なりの「大好きな屋久島の風景」に、僕はとても興味があったからだ。縁があり、それを本誌に掲載してゆく。最初のゲストを誰にしようか、少し悩んだのだが、やはり最初なので、自己紹介の意味も込めて自分自身をとり上げることにした。
第1回 淀川
ゲスト:大沢成二(写真家) 1967年長野県松本市出身。2003年の宮之浦岳登山がキッカケで屋久島と出会う。2007年に屋久島へ移住し、2010年中の写真集出版を目標に、現在精力的にこの島を撮影している。
淀川は、登山口からおよそ40分歩いたところに流れている。屋久島では川のことを「コ」とか「ゴ」と発音する。だからこの川は「淀川」と書いて「ヨドゴウ」と発音する。川の上には淡い緑色の小さな鉄橋が架かっていて、その上から川の流れを眺めることができる。淀川は、急峻な地形の屋久島山岳部にあって、意外にも緩やかな流れを持つ。川の水はどこまでも透明で、河床に溜まる花崗岩の砕けた白砂が底に透けて見える。日が射すと、風に揺れる水面の斑紋が、その上にゆらゆらと影をつくる。
2007年の移住直後、写真家の山下大明さんからこんなアドバイスを貰った。「屋久島を撮るのなら、どこか一箇所決めて、徹底的にそこを歩いてみることだ」と。僕は「一箇所決めるとしたらどこだろうか」と自分に質問してみた。浮かんできたのは淀川の緩やかな流れだった。そして最初の夏は、淀川登山口から宮之浦岳の間を徹底的に歩いた。帰り道に、鉄橋の上から淀川の緩やかな流れを眺めながら、その日の撮影を振り返った。淀川の緩やかな流れが、僕がこの二年間続けてきた撮影の原点となっている。だから、今でも撮影に迷うとここへ足が向いてしまう。あの淀川の緩やかな流れこそが、「わたしの大好きな屋久島の風景」なのだ。
追記:淀川の直ぐ脇には淀川小屋があり、登山者達の休憩ポイントになっている。僕は妻の亜矢とここで出会い、結婚して屋久島へ移住した。そういう意味でも淀川は、僕にとって思い出深い場所なのだ。