ローソク
撮影日:2008年1月4日
撮影データ:CanonEOS40D+EF-S10-22mmF3.5-4.5USM(焦点距離13mm)
ISO100 F8.0 1/125sec 露出補正+1.0 PL・三脚使用
1月4日早朝、目覚めてシュラフから抜け出ると外を見た。しかし空は真っ白。風は治まっていたが雲は厚かった。ラジオは、天気の回復は午後からだと言っていた。「予報どおりか」と思う。
ゆっくりと時間をかけて朝食を採り、10時過ぎくらいから行動開始しようと決めて再びシュラフに潜り込み、ザックから浮雲の文庫本を出してパラパラとページを繰た。小屋の中は暗い。だから蚕棚の上段で窓際に陣取っていた。しばらく浮雲に向かっていると突然、窓の外から日の光が差し込んだ。僕はおもわず顔を上げて外を見た。すると流れる雲の隙間に青空が見えた。一気にシュラフから飛び抜け外へ出た。雲の動きは早く、確実に先ほどより薄くなっている。小屋に戻ると手早くシュラフを畳んでまとめ、撮影機材だけをザックに詰めて外へ出た。もうぐずぐずしていられない。天気は回復してくる。とにかくロウソク岩展望台まで上がろうと思った。
気持ちは逸るが速度は出ない。凍りついた潅木は今日も登山道に覆いかぶさって行く手を阻む。しかも気温が上がってきたので、それが溶け始めている。樹林帯を抜けるころには上着がビショビショになってしまった。しかし、既に上空に雲は無かった。真っ青な青空が頭上に広がっている。ロープの箇所は例によって慎重に足場を確保しながら抜けた。そして最後は走った。するとローソク岩が見えた。
僕は思わす「ローソクだ」とつぶやいた。ローソク岩は雪を纏って真っ白になり、文字どおりの「ローソク」になっていた。
ポイントにたどり着くとザックからカメラを取り出し、とにかく手持ちで2,3カット抑えた。長く自然写真をやって来たなかで、千載一隅のチャンスに出くわすものの、三脚など機材を組み立てている僅かな時間にそのチャンスを失ってしまった、という苦い経験が僕にはある。なんでもいい、とにかく1カットでいいから抑えたかったのだ。
しかし、この日のローソク岩は安定していた。僕は抑えを撮った後、息を整えながら三脚を組み立て、じっくりとローソク岩に対峙した。保険をかけてメディアも複数代え、万全の撮影を行った。僕は幸せだった。このカットを撮りたくて、屋久島へ移住したと言っても過言ではなかったのだ。一昨年はこのカットを狙って山に入り、無理をして怪我をした。その時、通いでの撮影に限界を感じ、移住を決意したのだ。このカットは僕にとって、そういう意味で思い入れの深いものだったのだ。