石塚小屋
追い詰められた僕を救ったもの、それはGPSだった。
トレッキングの最中、僕はザックの天蓋にGPS端末を忍ばせて、行動記録をログとして保存している。しかし、お恥ずかしい話なのだが、それ以上の使い方をしたことが無く、ここまで追い込まれたときやっと、現在位置の確認を、GPSにさせようという発想に至ったのだ。
ザックを下ろしGPS端末を取り出すと、それを水平にして数字が安定するのを待った。読み取った数字を地図と照らし合わす。山と高原地図59によると、石塚小屋の直ぐ西に東経130度31分のラインが通っている。現在位置はまさにその130度31分を少し過ぎたくらいなのだ。
「もう少し行けば石塚小屋はある」僕はやっと明確な指針を得て、再度体制を立て直して前に進み始めた。
ものの5分も歩いただろうか?森の中に突然ブロックを積み上げた四角い非難小屋が現れた。「あぁ、良かった!」と、僕はホット胸をなでおろし、引き戸を開けて小屋の中に入った。
森の中に突然現れた石塚小屋
小屋はもう目の前だったのに、僕は危うく引き返すところだった。もしその選択をしていたら、どうなっていたのだろうか?GPS端末を持っていなかったら?小屋の中でザックを下ろした僕は、その場にへたり込みながら、色々なことに思いを巡らせていた。