シカの消えた森
白谷雲水峡に行くと「最低でも5頭くらいのヤクシカを見かけることが普通だった」というのがちょっと前の僕の記憶だ。しかしこのごろ白谷雲水峡へ行っても、シカに逢わないことの方が多い。その影響か、最近明らかに林床にシダ類などの植物が増えたと感じる。
苔むす森で以前撮影した写真と比べてみると、それは一目瞭然だ。以前この場所で撮影した写真には、シダ類なんてほとんど写っていないのに、最近はそれが画面の中で、風景のアクセントとして、とても目立つようになってきた。
僕にはどれが正常な状態なのかの判断はつかない。僕が知っているこの森は、せいぜい直近の16年くらいの変化でしかない。しかしこの16年の間でも、ここ最近の変化というのは急激だと感じる。白谷雲水峡のこの場所で、目の前の大岩の上にヤクシカが大きな角を振り上げて立つ姿を撮影したことが既に懐かしい。
こうした森の変化を記録する意味でも、時々はこの場所でカメラを構えることに意味はあると思う。写真の本質的な価値というのは、「記録」というところにこそあるのだと信じている。