屋久島ヒトメクリ.(11号)
わたしの大好きな屋久島の風景
第11回:ぱから×3
ゲスト:田陦浩昭(たじまひろあき)さん1952年埼玉県東松山市生まれ。2001年に屋久島へ移住。モッチョム岳のふもとの馬場で、多くの子供たちに体験乗馬を提供している。
尾之間集落の入り口、旧道とバイパスが分かれる少し手前をモッチョム岳の方向へ上った先に手ごろな大きさの馬場がある。そこにはサラブレットとポニーなど、四頭の馬がのんびりと遊んでいた。体験乗馬ができる「ぱから×3」だ。
オーナーの田陦浩昭さんは埼玉県東松山市の生まれ。地元で食品卸の会社を営んでいたが、奥さんの希望もあり、50歳を目前に、「どこか暖かいところ」への移住を考え始めた。ご本人の第一希望は小笠原だったが、奥さんの意見を尊重し、候補を屋久島へ絞り土地探しを始めたのが2000年の正月。2月には現在の尾之間の土地をみつけて本格的に移住計画が動き出した。手に入れた土地は馬を飼うのに丁度よい広さであったことから、子供のころからの夢を実現させようと、早速ポニーを購入し、埼玉の自宅で飼い始めた。その間にも屋久島の住居の建築は進み、2001年の3月、二人の子供とポニーを引き連れて、家族で移住を果たした。
敷地の中に馬場をつくり、馬の数も増やしてのんびりやっていたところ、ぜひ馬に乗せてほしいという人が現れた。「それでは」ということで、体験乗馬を始めた。するとその噂を聞きつけたある保育園の父兄から、子供たちを馬に乗せてほしいと頼まれた。屋久島は確かに自然豊かな場所だが、子供たちがみんなで遊ぶ場所というのは少ない。「そういう趣旨ならば」と、ボランティアで引き受けると、子供たちは本当に楽しそうに馬に乗った。するとまた別の幼稚園や小学校から体験乗馬の依頼が舞い込んできた。そのようにしてこれまでに、延べ7~800人の子供たちが「ぱから×3」で乗馬を体験した。「そのときのことを子供たちは本当に良く覚えていて」田陦さんは島のあちこちで、子供から声を掛けられる。「島の中に子供の知り合いの方が多いんじゃないかな」と。体験乗馬は子供たちのステキな「思い出づくり」の場になっているのだ。
また、その思い出づくりに一役買っているのが、馬場から見える風景である。馬場の先を見上げると、モッチョム岳の美しい岩峰が真っ直ぐにこちらを見下ろしている。この場所にいると「あのモッチョムを独り占めした」気になってくるのだ。
「こんなにも美しい風景の場所で、のんびりと馬を飼って子供たちの思い出づくりの手伝いをしているなんて、とてもいい暮らし方ですね」と言うと田陦さんは「でもそのための準備はいつもしてきたよ。何が起こってもいいように、いつでも準備と計画はしている」と答えた。「原因と結果」そう人生は「原因と結果」なのだ。田陦さんの生き方というのは、具体的にそれを物語っているように感じられた。