鬼火焚き
新年七日の夕方、屋久島の各集落では「鬼火焚き」が行われる。これは高い竹の上に鬼の絵を掲げ、根元に積み上げた竹や柴などとともに燃やし、一年の無事を祈る行事だ。集落ごと、内容は少しづつ異なるそうなのだが、僕の住む小瀬田地区の「鬼火焚き」を紹介する。
ちなみに、移住初年度の昨年は山行して不在だったため、この行事は今年初めて見ることになった。
16時過ぎ、海岸に人々が集まりはじめる。長い一本の竹があり、その根元に椎の木が短く切って沢山用意されていた。また正月飾りのしめ縄なども根元に集められていた。やがて男達が集まり、焼酎のお神酒をまわして行事は始まった。
長い竹には3本のロープがかけられており、男達はそれを引いて竹を立てはじめる。
竹は思っていたより相当高い。男達は手馴れた様子で、ロープを海岸の大岩に括り付け、あっという間に固定した。
いよいよ根元の竹や柴に火が放たれる。
火は勢い良く燃え上がる。
頃合いを見計らって、別のロープが引かれ、鬼が竹の上へと引き上げられてゆく。一面が赤鬼、別の面に青鬼が描かれている。
すると、集まっていた子供達がその鬼めがけて、一斉に石つぶてを投げ始めた。海岸なので、投げる石に事欠かない。ずいぶん大きな石を力いっぱい投げて、ダンボールの鬼に大きな穴をつくった子供もいた。
「なるほど、そういうことか!」と納得する。つまりこれは年の初めの鬼退治なのだ。鬼は無残にもボロボロになってゆく。
鬼がボロボロになったところで、竹は海岸方向へ引き倒され、男達の「急げ!」の声に、子供達が一斉に走り出した。
子供達は、竹の先に残った鬼を引きちぎり、駆け戻ってくる。
それを残り火の中へ投げ込んだ。後で聞いたのだが、ここでぐずぐずしていると、退治したはずの鬼が復活してしまうのだ。
鬼退治が済むと、人々は残り火の中から燃え残りの椎の枝を引き抜いて海岸へ向かう。
海水で火を消した後、それを手に、みな家へと引き上げて行った。
持ち帰った椎の枝は、一年間門柱に立てかけておくことによって、その家に災いがかかるのを防いでくれるのだという。我が家も持ち帰り、玄関先に立て掛けることにした。この枝は来年の鬼火焚きの時持ってゆき、別の焚き火で燃やすのだという。
僕の故郷、長野県松本市には、これに似た行事で「三九朗」というものがある。正月飾りのダルマやしめ縄、そして松葉を集めてやぐらを組み、それに火をつけて、柳の先につるした餅を焼いて食べるというものだ。根っこのところでは共通する要素もあるが、やはり所変わればやり方は大きく違う。それぞれの地方なりの文化に触れるというのは、本当に得がたい体験だと思った。
この後、各家々に「祝い申そう」がまわってきくる。子供達が中心になって各戸を回り、祝いの唄を唄ってくれるのだ。唄って貰った家は、お礼をして感謝の気持ちを示す。我が家にも先ほど来た。今年は正月から幸先良い。きっとよい一年になることでしょう。