手水鉢
撮影日:2008年11月10日
撮影データ:CanonEOS40D+EF-S10-22mmF3.5-4.5USM(焦点距離16mm)
ISO200 F8.0 10sec 露出補正-0.5 三脚使用
秋の冷たい雨が激しく降る日、白谷雲水峡へ撮影に行った。三本足杉のところにある渡渉点が増水した所為で、それより先では誰とも会うことはなかった。たった一人で白谷の森を歩きながら、心に留まる風景を見つけては、カメラをセットしてシャッターを切る。目の前では溢れんばかりに水を湛えた渓流がゴーゴーと物凄い音を立てて流れていた。
音の洪水の中に長く居続けると、だんだ平衡感覚が狂ってゆく。撮影を終えて立ち上がろうとしたら、バランスを崩して膝が砕けてしまった。右手を伸ばして体制を立て直そうとしたとき、それは僕の視界に飛び込んで来た。こんなものが目の前にあったなんて、まったく気づいていなかった。瞬間僕は「手水鉢だ」と、小さく呟いた。
小さなポットホールの壁面から、噴水のように勢い良く水が吹き出している。それは京都のお寺の庭にある、手水鉢を僕に思い起こさせた。雨で増水した渓流は水を溢れさせ、それを花崗岩の割れ目の中へ染み込ませ、ここから吹き出させているのだろう。自然とは、なんとも粋な細工を、風景の中に施すものだと思う。
僕はもう一度カメラザックを背中からおろすと、カメラをセットし、ゆっくりとアングルを決めて1カット撮影した。