厳冬期の永田岳とネマチ
撮影日:2008年2月18日
撮影データ:CanonEOS40D+EF-S10-22mmF3.5-4.5USM(焦点距離22mm)
ISO100 F8.0 1/250sec 露出補正+0.5 三脚・PLフィルタ使用
2月18日、午前3時に目が覚めた。風が止んでいる。空には星が見えた。「やった!」と小さく呟いてシュラフから飛び出る。
厳冬期の山小屋内部の気温は連日氷点下のままらしく、汗で湿気たゴアテックスのアウター上下は朝の着替えのときにはバリバリに凍っている。これに袖を通す時が一番つらいのだが、そんなことも言ってられない。コッヘルで湯を沸かし、昨夜炊いた米で腹ごしらえを済ますと装備をつけて小屋を出た。
月無し夜の登山道は真っ暗闇。例によってヘッドランプの明かりだけが頼り。逸る気持ちを抑えながら、汗を掻かないように注意しながら歩を進める。ヒメシャラの森を抜けるとき空を見ると星が見えない。「あれれ」と思いながら第一展望台まで行って空を見上げたら、やっぱり星が見えない。「参ったなあ」と思いながらもとにかく平石岩屋を目指す。6時半過ぎると薄ぼんやり明るくなってくる。上空はいつの間にか厚い雲が覆っていた。がっかりしながらそれでも目的地の平石岩屋に到着し「今日もまた天気待ちか」と思う。ただ、幸いなことに昨日までのような吹雪ではない。上空の雲は動いているが、稜線は穏やかだった。
それでもじっとしていると寒いので、岩屋の前を、お百度を踏むように行ったり来たりしている。このくらいの寒さなら、体を動かしている限り凍えることはない。そんなことを延々と繰り返して二時間、午前9時を回ったくらい、上空に青空が見えた。「いい感じでは?」と思い、ザックからカメラを出して三脚にセットする。先日来の経験で、撮影チャンスがほんの一瞬という場面に何度か出くわしたので、予め準備万端で天候の回復に望む。すると予定どおりその直後、一気に雲が晴れた。
真っ白になった永田岳とネマチが僕の眼前にその雄姿を現した。何日も取れなかった雲だが、取れるときは、一気に取れる。屋久島は本当に不思議な島だ。僕は夢中でシャッターを押す。イメージどおりの光景だった。「撮ったぞー」と思わず声に出して叫んでしまった。
しかし天候回復後わずか15分、平石岩屋についていた雪がボロボロと落ち始めた。それから更に15分、花崗岩の表面を溶けた水分が幅広いしみになって染めはじめた。それだけ太陽光線が強いということなのだろう。ここが南の島なのだということを実感した。
僕は平石岩屋での撮影を終え、宮之浦岳のピークを目指した。しかし、アセビやシャクナゲ、ヤクシマダケの葉は強烈な南の島の太陽の熱を集め、表面に凍り付いていた雪を落としてゆく。それらの植物は、見る間に真っ白な雪原の中に立ち上がってゆくようだ。宮之浦岳のピークに到着するまでの2時間で辺りの風景は一変してしまった。もう写真にならない。。。。
屋久島の稜線における雪の撮影は本当に困難なのだということを実感した。島の上空にまとわりついた雲は天気予報を裏切り続け、何日も取れない。それが取れたと思ったら、今度は一気に雪が溶けてしまう。稜線で雪を撮ろうと思ったら、予め撮影ポイントに入って根気良く天候の回復を待たなければならない。色々な意味で考えさせられる撮影行だった。