雪の鹿之沢小屋
1月3日、焼野三叉路から永田岳の鞍部まで、たった一人でのラッセルは困難を極めた。幸い天候が回復してきて視界が効いたのでルートを見失うことは無かったが、とにかく雪が深い。ルートの真ん中だとまともに腰まで沈み込む場所があるので、ヤクシマダケとの境を慎重にトレースしてゆく。いつもは20分程度の距離なのに、この日は鞍部まで1時間以上掛かった。
そこからまた永田岳の登りが大変だった。一歩につき二度三度キックして足場を固めながら高度を稼ぐ。背中に担いだザックが重い。ストックのバスケットを深雪用に交換してあったのが、せめてもの救いだった。
二時間以上使ってやっと永田岳の肩にたどり着く。西斜面はまだ吹雪いていた。当然トレースは無いしピンクテープも確認できない。このコースは夏場も含めて既に何十回と通ったが、やはり雪が積もると様相が一変してしまう。地形を見ながらルートを外れないよう慎重に下る。
年始に吹雪の中、永田のピークまで来たが、そこから鹿之沢へ下ることができず、また時間的に新高塚小屋へ戻ることもできず、祠のある岩屋でビバークした、という登山者に会った。ツエルトすら持たなかったため、シュラフとシュラフカバーだけで夜を明かしたらしい。朝起きると装備はバリバリに凍りついていたそうだ。翌日死ぬ思いで新高塚小屋まで返し、動けなくなって一日寝ていたという。
しかし、吹雪いて雪に埋まった西斜面の登山道は本当にルートが分からなくなる。無理に下らなかったのは、正しい判断だったかもしれない。ま、その前に十分な装備を持たずに永田にアタックした時点で、大きな判断ミスを犯しているのだが。しかし、本当に事故にならなくて良かった。
ロウソク岩展望台を過ぎていよいよ樹林帯に入る。ロープの箇所、雪面はクラストしてロープそのものは凍りついている。慎重に足場を確保しながら時間を掛けて降りる。樹林帯に入ったら入ったで、今度はまたアセビやシャクナゲが雪で凍りつき、登山道に覆いかぶさっている。どこまで行っても冬の山歩きは体力を使う。最後はヘトヘトになって、斜面を尻セードで下った。
15:40、なんとか鹿之沢小屋にたどり着く。やれやれとため息をつきながら、小屋の引き戸を開けた。