モッチョム岳
明けて6月9日。
目覚めて体調を確認すると思ったより回復している。「ヨシ、今日はモッチョム岳へ行こう」と決めた。車を千尋の滝の駐車場に入れて出掛けようとすると、隣の車から降りてきた登山者に声を掛けられる。誰かと思って良く見ると、先日鹿之沢小屋で同宿になった一行だった。そのパーティーも今日はモッチョムへ行くらしい。屋久島を歩いていると良くこういうことがある。違う場所で同じ人に会うのだ。ある意味屋久島は狭いところだと思う。
モッチョム岳への登山口は千尋の滝の展望所へ行く手前にある。一度左へ巻いて小さな渡渉点を過ぎるとそこから凄まじい急登が始まる。特にその日は雨がひどく、足場がぬかるんでいたので往生した。6月前半とは言え、標高の低い山なので、森の中は気温が高めだ。おまけに雨のため、合羽を着ているので熱がこもる。ムッとする草いきれが充満した森の中で思わず咽かえりそうになりながら、額を流れ落ちる汗なのか雨水なのかを既にビショビショに濡れたタオルで拭いながら、一歩一歩足を進める。右から千尋の滝の流れ下る音が響いているが、本体は森に隠れて見えない。やがてその音が遠ざかるところまで登ると小さな沢筋に沿ってトラバースがはじまり静かな森の中に分け入っていく。そこから更に歩いて見晴らしの効く尾根筋に出ると大きなヤクスギが一本立っていた。万代杉だ。見上げて撮影したが、光線条件が悪く真っ黒に写ってしまった。撮影を早々に諦めて先を急ぐ。
小さな渡渉点を越え、尾根筋に出て更に登る。右下にモッチョム太郎が見えたが今日は素通りだ。やっとのことで神山展望台まで登り切ったが、そこからまだまだ先は長い。幾つかロープ場を交え、小さなアップダウンを繰り返しながら、モッチョムのピークへ向かう。雨で濡れた登山道は滑りやすく結構危険だ。登山口で出会ったパーティーが先発しており、ちょうど引き返してくるところでピーク目前ですれ違う。一瞬晴れ間が見えて、モッチョムから海の方に虹が見えたという。その言葉に励まされて足を前に出す。花崗岩の大岩から太いロープが垂れている。これを登りきれば頂上だ。ロープをつかむと勢いをつけて一気にピークへ出た。虹を期待したが、それは望むべくもなく、雲の切れ間から海岸線が僅かに見えただけ。この日はピークを、とりあえず踏んだだけ。モッチョムはなかなか厳しい山でした。
モッチョム岳ピークから。この日は僅か海岸線が見えただけ。