石塚小屋の夜
無事に石塚小屋にたどり着いた僕はしばらくそこでぼーっとしてしまった。
無事に着いた安堵感がそうさせたのだが、その時の僕はとにかく疲れていたのだ。なんだか何もやりたくない。そのくらいに疲れていた。しかし、食事もせずこのまま眠る訳けにはいかないし、誰かが代わりに何かを作ってくれる訳でもない。この時間に独りだということは、今夜、この小屋へ泊まるのは僕だけだろうし。。。。
僕は小さくため息をついた後に「よっこらしょ」と立ち上がり、水筒を持って水場へ向かった。ここの水場は小屋からちょっと離れている。先ほど転倒したとき打ち付けた左足の脛がズキズキと痛んだ。「ちょっ荷物が重かったのかなぁ〜」と反省する。ここのところデスクワークばかりで、体が鈍っていたのがいけなかったようだ。
水を汲んで小屋に戻った僕はのそのそと食事の支度をして、出来上がったそれをもそもそと食べた。食事を終えるころ、森は一気に夜の闇を吸い込み周囲の視界を奪ってしまった。日が落ちても小屋には誰も来なかった。やっぱり今夜はここで1人泊まることになりそうだ。僕は食事の片付けもそこそこにシュラフにもぐりこむと、そのまま深い眠りに落ちて行った。
石塚小屋内部
夜半過ぎ、寝ていた僕は夢の中で何かの大きな足音を聞いた。小屋の1階で寝ていた僕の頭の上には中二階がある。その上を誰かが「のしのし」と大きな音を立てて歩いているのだ。ハッツとして、一気に目が覚めた僕は慌てて首に掛けてあったヘッドランプのスイッチをまさぐって明かりをつけ辺りを照らした。
何もいない。「ああ、夢か」と安心して明かりを消す。すると、足元のザックの方から何か小動物の動くカサカサという音が聞こえた。もう一度ヘッドランプをまさぐって素早く明かりをつけ、音のした方を照らした。すると、ネズミが一匹ザックの付近からサッと逃げて床下へもぐりこむのが見えた。「ああ、いるとは聞いていたけど、やっぱいるのね。きっとさっき夢の中で聞いた足音もコイツじゃないかな」と音の原因を確認して、ほっとし、もう一度眠りについた。