縄文杉のデッキで
大王杉の撮影を終えた僕は再び登山道を登り始め、下ってくる幾つものパーティーとすれ違った。
僕があまりに遅い時間に登っているので「小屋泊まりですか?」と何度も声を掛けられた。その度「そうです」と答えた。そんな下りの登山者とすれ違わなくなってきた頃、縄文杉のデッキが見えてきた。時刻は既に14時20分になってた。
デッキの直下にある水場で水の補給をしてからデッキに掛かる木製階段を、フーフー言いながら上って行った。最後の段を上り終えてデッキの上に立つと、真正面から縄文杉が迎えてくれた。大きい。天辺の枝は間違いなくデッキの上に張り出して来ている。見上げた自分が後ろにのけぞって倒れそうになった。
デッキの一番前から縄文杉を見上げる
撮影データ:EOS-20D+EFS-10-22mmF3.5-4.5USM(焦点距離10mm)
ISO100 F8.0 1/80sec 露出補正+1 三脚使用
その時デッキの端にデポしてある青いカバーを掛けた大きなザックが目に入った。しかしデッキの上に人影はなく、ここに居るのは僕だけ。このザックの持ち主はどこへ行ってしまったのだろう?と僕が訝っていた時、縄文杉の後ろでガザガザという音がして何かが動いた。ヤクシカでも居るのかと思ってそちらを見ると、それは人だった。
銀色のビデオ三脚にSONYのビデオカメラをセットし、それを片手で持ちながら、人が縄文杉の後ろから現れてデッキの方へ歩いて来た。そうしてその人は柵を乗り越えて、デッキの上に降りた。あっけにとられている僕の脇で、その人は機材をバラしてザックにしまい始めた。どうやら縄文杉の裏で撮影をやっていたらしい。
どうしようかと考えたが、一言何か言うべきと思い僕は声を掛けた。「(縄文杉の周りが)立ち入り禁止だということは知っていると思いますが、(やっては)いけないということは、やっぱりしてはいけないンじゃないですか?それにこの間、ああいうことがあったばかりだし、疑われますよ」と。
その人は僕の方を見て小さく「すみません」とつぶやいた。
変に正義漢ぶるつもりもないのだが、直近に縄文杉の樹皮が剥ぎ取られるという事件があったばかりだったので、余計に何か納得できなくて、「何とかこの男の正体を突き止めて警察にでも通報してやろうか」とも考えたのだが、変にこじれて逆恨みされてもつまらないと思い、それ以上の追求は止めた。
機材を仕舞い終えたその人は、バツが悪かったのか、そそくさとデッキを離れ、下山して行った。1人だけになった僕は、そんなことがあったお陰で少々気分が悪くなってしまったのだが、気を取り直してデッキの上から撮影を行うことにした。
デッキの左から周囲の森といっしょに縄文杉を写し込む
撮影データ:EOS-20D+EFS-10-22mmF3.5-4.5USM(焦点距離13mm)
ISO100 F8.0 1/5sec 露出補正+1 三脚使用
縄文杉の撮影は、ほぼデッキの上からに限られてくる。従ってどうしても似たアングルになってしまい勝ちだが、そういう限られた条件の中で、自分なりの構図やシャッターチャンスを探す面白さがある。また、時期や時刻を考慮しないと、デッキの上は他の登山者で混雑するので、撮影が目的でゆくのであれば、少し人はと変わった時間帯の行動計画を立ててみると良いのではないかと思う。