雨の島でなぜデジタルか?
僕が初めて屋久島を訪れたのは2003年10月5日から14日までの10日間だ。。
訪島の主たる目的は九州最高峰の宮之浦岳(1936m)に登ることであり、ついでといっては何だが、有名な縄文杉を見てくることだった。だから屋久島そのものに、初めから強い興味や思い入れがあった訳ではない
宮之浦岳には、淀川登山口から入り、ピークを踏んで新高塚小屋に1泊、荒川登山口に下るプランを選び、天気に恵まれた初日の10月6日は、快調に登って予定どおり新高塚小屋にたどりついた。しかし、一夜明けた10月7日、天気が崩れて登山道の様子は一変する。文字どおりバケツをひっくり返したような雨が降り、踏まれて低くなった登山道に水は集まり川になっている。最初靴を濡らさないようにと気を使って歩いたが、この雨の中それは不可能なのだと悟り、濡れることを覚悟で川になった登山道をざぶざぶと歩いた。
1時間ほど下って縄文杉のデッキに辿り着く。話には聞いていたが、そこで縄文杉に対峙した僕は、ただ圧倒された。フードを叩く雨滴の音が自然と遠ざかってゆく。そこは音の無い空間だった。
持って来たCanonEOSD30というデジタルカメラ、それとポジフィルムを詰めた、CanonEOSkissを三脚に据えて交互に撮影を行った。物凄い雨の中でのこと、そう沢山シャッターを切ることはできないが、それでも双方10カットづつ撮った。
縄文杉を後に、それからは強い雨の降りつける登山道をただひたすらに下る。途中に雨を避ける場所は無く、全身濡れ鼠だ。ウイルソン株に辿り着き、やっとのことで株の内壁の影でザックを開いて昼食を摂った。ここでも一応撮影をやっているのだが、ポジを詰めたEOSkissが丁度ロールチェンジとなってしまった。細心の注意を払ってフイルムを詰め替えたのだが、このときフイルム室には雨滴が侵入していた。
当日何とか荒川まで辿り着いた僕は、天気の回復を待って、後日縄文杉や大王杉の撮影に行っている。そのとき、撮影で使用したポジは、ウイルソン株の中で詰め替えたロールだった。これが悲劇を招く。旅行から帰ってラボから戻ってきたアガリをみた僕は、ショックを隠しきれなかった。そのロールには最初から最後まで、1本まるまるスクラッチがついていたのだ。
僕は最初ラボのミスだと勘違いしてラボに怒鳴り込んだ。しかし、ラボの技術者は、現像行程でこのようなミスは100%起こりえないと自信を持ってラボの責任を否定した。お互いに冷静になって原因を追究して行ったところ、ロールチェンジのときに、パトローネについた雨滴がそのままフィルム室に持ち込まれたのが原因という結論になった。
屋久島の雨のことはうわさには聞いていたが、実際に体験したソレは僕の想像を遥かに超えた凄まじいものだった。ハッキリ言って、あの状況でもう1度ロールチェンジを行って、ミスを犯さないという自信が僕には無い。そこで、フットEOS-D30のこを思い出す。電子機器であるデジタルカメラは当然雨に弱い。ましてD30はエントリーモデルがベースのマシンなので、フラグシップ機のような防塵防滴性というものは望めないと考えていた。雨の登山道で撮影をしながら、「カメラを壊してしまうかもしれない」ということが何度も頭を掠めた。しかし、結果はノントラブルだった。
この時の体験が、「雨の屋久島での撮影に、デジタルカメラは向いているのではないか?」という確信を持つ原点になっている。
雨の島でデジタルカメラを使って思いっきり撮影をやってみたい。僕がそう考えたのは最初の訪島から帰った2003年の10月末のことだった。