土門さんの大王杉
最初の訪島の時、僕は縄文杉を2回撮影している。
1回目は宮之浦岳登山の帰り道になった10月7日に。そうして2回目は島を離れる前日の10月13日だ。しかし、2回目に縄文杉まで行ったのはいわばオマケで、そのときのお目当ては、大王杉だった。
宮之浦岳の登頂が主たる目的だった僕は、そのとき屋久島について全くの不勉強で、縄文杉以外の屋久杉のことを全くと言っていいほど知らなかった。しかし、何日か島に滞在しているうちに、宮之浦の観光センターで1冊の本に出会う。
三好和義著 世界遺産屋久島の撮り方
パラパラとページを繰っていた僕の目は、ある1枚の写真に釘付けになる。ガタガタと足が震えた。物凄い衝撃だった。
著者である三好さんには申し訳ないのだが、僕にそこまで衝撃を与えた写真とは、その本の巻頭で紹介されていた、土門拳氏の撮影した大王杉の写真だった。
僕は訝った。「荒川登山道に、こんな凄い杉、あったけ??」と。慌てて車に戻り、地図を広げると、縄文杉の直ぐ下に大王杉はある。あのバケツをひっくり返したような大雨の中、僕は大王杉を見落としてしまったようなのだ。
土門拳氏の撮影した大王杉 三好和義著 世界遺産屋久島の撮り方より
翌日午前4時、僕は荒川登山口から大王杉を目指した。色々事情があって、お昼までに登山口に戻らなければならなかったので、スタートがこの時間になったのだが、あたりは未だ漆黒の闇。車を降りると森の気配が一気に押し寄せてきて、僕の勇気を削いでいく。車を5mほど離れて振り返ると、それは既に100mも向こうにあるように見える。途端に僕の脳は、行かなくていい理由を探し始めてしまった。
それを振り払うように僕はイメージした。光輝く朝日の中で、大王杉を撮影している自分を。自らに声かけ鼓舞し、ヘッドランプの糸のように細い光を命綱として、軌道敷の登山道を進んで行った。
前進さえしていれば、どんな苦行にも終わりは訪れる。軌道敷を歩ききって大株歩道入り口に辿りついたころ、夜が明けてきた。
当日は素晴らしい天気で、翁杉、ウイルソン株を過ぎ大王杉に辿りついた。木道の下に三脚を立てて撮影を行う。周囲の木が茂り、土門さんの撮影したポジションからの撮影は不可能であったが、僕はEOS-D30とポジフィルムを詰めたEOSKissで光を待って何枚か撮影をした。満足だった。
その後の顛末は既に書いた。ポジで撮影したカットは全滅だった。旅から帰った僕の絶望は大きかった。しかし、その一方で、デジタルに新たな可能性を感じるキッカケにもなったのだ。
しかし、D30の300万画素という画質には不満が残った。Webで発表するには問題が無いが、最終的に写真はプリントして楽しみたいと思っていたからだ。
そうして僕はD30の後継機 CanonEOS20Dを手に入れる。デジタル1眼の弱点であったワイド側レンズの問題も、Canonが発売した、EFS-10-22mmというレンズを手に入れることで解決した。
もう1度屋久島を訪門して、大王杉に対峙する日を、密かに夢見ながら、細々とした準備を始めていた。
撮影データ CanonEOS-D30+EF20-35mmF3.5-4.5USM
ISO100 F8.0 1/15 三脚使用